満足度の高いニキビ 治療
満足度の高いニキビ 治療
余計にインパクトが強かった。
その言葉と、真面目な表情が、今も脳裏に焼きついて離れない。
笑っていいのかわからない。
冗談なのか、本気で言っているのかもわからない。
そんなわけないじゃん……心のなかの思いを、口にしていいのだろうか。
数秒間、私と麻酔科のドクターは、言葉を失ったままだった。
消毒を持ったままのIちゃんが、呆然と鼠径部を眺めながら、「そんなこと、あるわけないじゃないですか」皆が思っていたことをボソッと口にした。
はっと魔法が解けたかのように、皆我に返り、止まっていた空気が流れ始めた。
「今から剃毛のカミソリと石鹸持ってきますから、時間をください」Iちゃんは部屋を出ていった。
Iちゃんと入れ替わるように、主治医が手洗いを済ませ入室した。
ウィーンと一扉が開いた瞬間、皆が一斉に主治医のほうを向いた。
「あっ、すいません皆さん。
俺を待っていてくれたんですね。
はい消毒」主治医は私に消毒を要求した。
「それが先生、できないんです(剃毛がまだなんですよ)」私が言うと、「そう、毛が生えちゃってるからさあ……」先輩ドクターがつけ加えるように言った。
「えっ、あらら……」主治医はぐっと身を乗り出し鼠径部を見た。
Iちゃんが剃毛セットを持ってやってくると主治医は、「すいません。
看護婦さん」とIちゃんに謝っていた。
「いえ(先生のせいじゃないですよ)」執刀医が先輩のアドバイスを受けながら行う手術は、スムーズとはいえ、いつもより時間がかかる。
予定の時間をオーバーし、次に行われる手術は、別の部屋に変更になった。
そのため、この部屋の手術予定は三例から二例に減った。
次の予定の患者は、病棟で待曝機している。
朝から自分の順番を待っているのだから、待確機する時間が長くなればまだか、まだかといつまでも、手術室からお呼びがかかるのを待つことになる。
手術がなるべくスムーズに、しかも時間内に終わるのをスタッフだって患者さんだって望んでいるのだ。
ようやく手術が終了した。
Iちゃんは、消毒をふき取りながら主治医に告げた。
「剃毛の時間は痛かったですね。
病棟の看護婦さんに剃毛されていなかったことを、看護婦サイドで申し送りしておきます」Iちゃんは黙々と剃毛にかかった。
剃毛を終え、やっと執刀となった。
部屋の片付けと、次の手術の準備をしながらIちゃんは、「剃毛で時間を食うなんて……。
だいたい、一日で毛が生えるわけないじゃんねえ。
時間もずいぶんオーバーしちゃったし……」私にブッブッ言っていた。
「うん、そうだね」そう答えながらカウンターに目をやると、さきほどのヘルニアの組織が、ホルマリン瓶に漬かったまま残っていた。
主治医が忘れていったのである。
この組織、忘れたことに病棟に帰って気づくと、あの先生は、また『すいません』って言いながら、取りにくるんだろうな今日、何度もすいませんと謝っている主治医が気の毒に思え、瓶を持って、更衣室にいる彼のもとへ届けた。
「はい、すいません」主治医はまた謝っていた。
そうして患者さんは観察室へ移された。
以降、その先生は私のことをずっと、「Iさん」と呼んでいた。
私も時間が経つにつれ、「Iではなく、Sですよ」と本当のことを言い出しにくくなってしまった。
先生の前では多少の罪悪感を引きずりながら、ずっとIさんで通していた。
私をIさんと呼んだまま、先生は別の病院へ転勤になった。
私は、本物のIちゃんが誰かにIさんと呼ばれるのを聞くたびに、思わず振り向き、「はい、忘れ物ですよ」「あっ、すいません。
Iさん」名前を取り違えて(Iちゃん=Iさん)私を呼んだ。
手術室の看護婦といえども、名札はちゃんとつけているのだが…。
ああ、この人、私とIちゃんを反対に覚えている。
しかし、わざわざ否定するのも面倒くさかったので、「いいえ」とだけ答えて手術室に戻った(今、考えると意地悪だったかなぁ)。
あの先生に悪かったなぁと胸がキュンと痛むのであった。
あと、心残りがもう一つある。
先輩ドクターの一日で毛が生えた発言は本気だったのだろうか。
先日、私は出産を終えた。
「順調ですよ。
安産のためには、しっかり歩いてください。
朝と夕、一時間ずつの散歩が理想です」これが先生様からのご指示。
「へえ、わかりましただ、お代官様」ありがたきお言葉にひれ伏し、元気な子を産むぞ!と拳を握っていた私。
そのころの私にとっての先生は、サイババのような存在だった。
信者と化していた私にとって、サイババの話す言葉は、死守せねばならないものだった。
もしドクターが、「三十分スキップしなさい。
安産のためですよ」と言ったなら、実行しただろう。
よし合計二時間の散歩ね。
そのくらいなら平気、平気。
つい先日まで病院内でフルに動いていた私には、二時間の散歩ぐらい、な−んてことなかった。
毎日、朝、昼と二時間は歩いた。
それだけでは飽き足らず、窓拭き、雑巾がけなど、あらゆる掃除をしまくった。
「歩いていく」と言ったときにはさすがに彼から、「やめとけ−」と肩をつかまれた。
私の散歩ついでに、実家の犬も連れていく(ほとんど巻き添え)。
犬は私との散歩をいやがっていた。
迎えにいくと犬は、チッ、また来たのかよ−と迷惑そうにし、母や祖母の顔を見上げながら、イヤだ。
行きたくないと隠れたり、まったく動かなくなったりするのだ。
そんな様子を見かねた妹が、「姉ちゃん、○○(犬の名前)をつき合わせるのやめなよ、かわいそうじゃん」と再三私に忠告した。
「私も犬も散歩は日課じゃありませんか」と言い返し、「旅は道連れ、長−い距離と時間、一緒に散歩ができて、ありがたいと思わんのかね。
君は」犬に聞いてみたが、やっぱり犬は迷惑そうだった。
どうやら散歩という気軽な雰囲気ではないことを、犬なりに感じていたらしい。
安産という使命を達成するために、黙々と歩く私の心はゴォーという音を立てて燃え上がっていた。
そんな私といると、火の粉が飛んできそうだったのだろう。
誰だって(犬だって)、火の粉なんて好んでかぶりたくない。
とにかく超ハードな散歩を、出産前日まで続けた。
ちなみに出産の前日は、朝の散歩を終えたあと、講談社の蓬田さんとお会いし、その後、職場のみんなと遊び、また散歩に出るというハードなスケジュールをこなした。
日曜日の朝、目がさめた瞬間、水が降りるような感じがした。
「破水した……」急いで彼を起こす。
「破水したよ、今日産まれるよ」彼は信じていない様子だ。
布団に入ったまま、私の肩をポンポンと叩き、「はいはい、わかったから今日はゆっくり寝とけ−」いつもどおりの彼である。
一週間は帰ってこれない。
帰ってきたら家が臭かったり、汚れていたりするのは嫌だ。
生ゴミを処分して、洗濯機を回し掃除する。
今から出産、力が要るぞ、朝食を食べる(そんな場合じゃないってば)。
病院に連絡を取る。
「すいません、破水しました。
今からすぐそちらへ伺います」彼もやっと、本当に出産が迫ってきたことを悟ったようだ。
慌てて用意する。
あっ、そうだ。
みんなに知らせなきゃ。
メールを打とう。
数人にメールを打つ。
緊急連絡網でリーダーに知らせなきゃ昨日会った先輩に連絡する。
「リーダー。
今、破水しました」「わかった、がんばれ。
あとはみんなに連絡しとく」「了解」(これは悪い例です。